受託開発会社がSaaSに挑戦する際、最初に立ちはだかるのは「開発」ではなく、事業を伸ばすための仕組みが整っていないことです。
「何を優先すべきか」「個別要望にどう対応しながらプロダクトを育てるか」「数字を見てどう改善を回すか」──この意思決定と推進が属人化すると、立ち上げは加速しません。
本事例では、ある受託開発会社が展開するBtoB向けノーコードデータベースSaaSに対し、PdM/PMMとして参画。
戦略策定とPL作成、ロードマップ策定と開発推進、顧客現場に入り込むカスタマイズ開発PM、さらにCRM導入を起点としたビジネスオペレーション改善までを一気通貫で伴走し、商談対応可能件数の増加とMRR成長に寄与しました。
POINT
- 戦略と数字を整備し、意思決定を「感覚」から「数字と優先順位」に切り替え
- ノーコードデータベースSaaSの特性を踏まえ、ARPA向上を軸とした成長戦略を策定
- ロードマップと開発を継続的に回せる状態へ
- 顧客現場へ入り込み、個別要望を最短で価値化しつつ負債化を抑制
- CRM導入を軸に、営業から導入、運用までのビジネスオペレーションを改善し、対応キャパを拡張
支援先の概要
- 企業 : IT開発を強みとする受託開発企業
- 事業 : BtoB向けノーコードデータベースSaaS
- フェーズ : 立ち上げから成長初期
- 体制課題 : 戦略、PdM、オペレーション設計が十分に揃っていない
“作れる”のに伸びない。受託からSaaSへの転換で起きる混乱
支援に入った当初、プロダクトには明確な可能性がありました。
一方で、立ち上げ期のSaaSでありがちな「全部が同時進行」になっていました。
- 個別要望への対応
- 標準機能の開発
- リード獲得から商談、導入
- 導入後の運用定着と問い合わせ対応
- 数字把握と改善
どれも重要で、どれも急ぎ。
しかし、優先順位の軸や運用の型がないまま進むと、開発はブレ、個別対応は負債化し、社内の情報は散らかり、改善が回らなくなります。
受託開発会社がSaaSに挑戦するときに陥りがちな混乱が、そのまま起きていました。
この状態を解くために必要だったのは、追加の開発リソースではなく、意思決定の型と事業が回る仕組みでした。
まず整えたのは、戦略とPL。「意思決定できる状態」を作る
最初に着手したのは、戦略の言語化とPLの骨格づくりです。
ここが曖昧なままだと、要求と施策が増え続け、判断が場当たりになっていきます。
戦略と前提の言語化
- ターゲット顧客と用途の明確化
- 提供価値の構造整理
- 受注形態の整理
PLとKPIの整備、成長戦略の方向性設定
- PLの作成
- 重点KPIの設計
- ARPA向上を軸とした成長戦略の策定
ノーコードデータベースSaaSでは、ユーザーが自分でデータベースを設計・構築するため、導入後のサポートコストが想定以上にかかります。
データベースを作りきれない、意図しない使い方によるエラーが頻発する、といった問題が起きやすく、利用人数が5名の企業でも100名の企業でも、サポートにかかる工数はあまり変わりません。
この特性を踏まえ、顧客数を追うよりもARPAを上げていく方が事業として健全という判断をし、ターゲット顧客の見直しと価格戦略の再設計を行いました。
この段階で重要だったのは、「やること」を増やすことではなく、「やらないこと」を決めることです。
受託の現場では目の前の案件が常に強い優先度を持ちます。だからこそ、SaaSとして伸びるための基準を明確にする必要がありました。
次に、PdM推進。ロードマップと開発を積み上がる形にする
戦略とPLで判断軸を作ったあと、PdMとして「作る順番」と「進め方」を整えました。
受託の延長だと「依頼されたものを作る」になり、SaaSに必要な「伸びる順番で作る」が成立しません。
- ロードマップ策定
- 要求整理
- 優先順位付け
- 開発進行管理
- 案件対応と標準機能開発の判断基準明文化
結果として、開発が「場当たり」ではなく、勝ち筋に沿って積み上がる形に切り替わっていきました。
UI/UX改善とセルフサービス化で、導入障壁を下げ、継続利用を滑らかにする
ノーコードデータベースSaaSでは、初期の理解と継続利用がMRRに直結します。
さらに、ユーザーが自力で問題を解決できる仕組みを整えることが、サポートコストの抑制にも直結します。
そのため、PdM推進と並行してUI/UX改善とセルフサービス化を進めました。
- 初期設定から最初の成功体験までの導線設計
- 日常操作の詰まり解消
- 情報設計の見直し
- ヘルプ記事の体系的な整備
- よくあるエラーと解決方法のナレッジ化
特にヘルプ記事の整備は、ユーザーの自己解決率を高めるだけでなく、サポート対応の標準化にもつながり、CSチームの負荷軽減に大きく貢献しました。
個別対応は避けない。ただし負債にしない。顧客現場に入り込んで「資産化」する
受託開発会社のSaaSでは、個別要望を完全に避けるのは現実的ではありません。
一方で、個別開発を積み上げると、標準機能が止まり、保守負債が増えます。
このジレンマを解くために、顧客現場へ入り込み、価値提供を最短化しつつ、学びをプロダクトへ還流する進め方を採りました。
- 現場ヒアリングで業務を理解し、要望を目的に翻訳
- 実現方式の整理
- カスタマイズ開発のプロジェクト管理
- 再利用できる形への整理
- 将来の標準化を見据えたロードマップ反映
また、顧客現場で得られた「つまずきポイント」や「よくある誤操作」は、ヘルプ記事やUI改善にフィードバックし、同様の問い合わせを減らす取り組みにもつなげました。
CRM導入を起点に、ビジネスオペレーション全体を改善する
MRRを伸ばすには、売上が積み上がる仕組みが必要です。
立ち上げ期はどうしても、情報が散らかり、対応が属人化し、改善のサイクルが回りづらくなります。
そこで、CRM導入を軸に、営業だけでなくビジネスオペレーション全体を改善しました。
取り組んだこと
- 顧客情報の一元化
- 業務フローの整理
- 対応の標準化
- 優先順位付けの仕組み化
- データで改善が回る状態づくり
特に、ARPA向上を重視する戦略に沿って、より規模の大きい企業や、継続利用の見込みが高い顧客への対応を優先できる仕組みを整えました。
結果として、個々の担当者の頑張りに依存せず、商談対応可能件数の増加と、そこからのMRR成長につながる土台を作りました。
成果
※守秘のため数値は非公開の定性表現で記載します。
- 戦略とPL、KPIが整い、意思決定が速くブレにくい状態へ
- ARPA向上を軸とした成長戦略により、事業の収益性が改善
- PdM推進により、ロードマップと開発が継続的に回る状態へ
- ヘルプ記事整備とUI/UX改善により、ユーザーの自己解決率が向上しサポートコストを抑制
- 顧客現場への伴走で導入障壁を下げ、学びを標準機能へ還流できるように
- CRM導入を起点とした全体改善により、対応キャパが拡張しMRR成長に寄与
受託からSaaSを前に進めるための再現ポイント
今回の支援で鍵になったのは、受託会社がSaaSを伸ばす際に不足しがちな機能を、順序立てて埋めたことでした。
- 戦略とPLで意思決定の軸を作る(プロダクト特性を踏まえた成長戦略の設計)
- PdM推進で作る順番と合意形成を固める
- セルフサービス化を進め、サポートコストを抑制しながら顧客体験を向上
- 顧客現場への伴走で個別要望を資産化し、負債化を抑える
- ビジネスオペレーション全体の改善で、属人性を下げて改善が回る状態を作る